Amalgam Blog

2022年08月

(一応記事を書いて一日寝かして、改めて辛口だとは思いましたが、実際この通りだと思うのでそのまま公開します)

現状の選手のレベルと、レスキューのルール及び用意されるレイアウトとのギャップはあまりに大きすぎる。
いくら当日の朝に競技で使うレイアウトがわかったとは言え、当日の調整で埋めるにはこのギャップはあまりに大きすぎる。
特にプレマッピングに厳しい(これが厳しいことを批判しているわけではありません)体質のロボカップレスキューという競技においては、ギャップを誤魔化す手段も皆無です。

なので選手のほとんどは、会場にきてコースを一望し「あぁ、これは無理だ」と肩を落とし
とりあえずロボットを出し試走するもや「やっぱり無理だ」となるわけです。

こうなってしまっては先述の通りギャップを埋めることは難しく、そんな中でなんとか点を取ろうと踏ん張れるチームは少ないかと思います。

逆に、踏ん張れなかったチームのその一日の競技会が、楽しい訳がない。
なんとか局所的にクリアできる頃には競技本番を迎え、調整が間に合ってない場所は競技進行停止を連発する作業。

これを楽しくできる人間は正しくその手の天才であろうと思う。


この状態の原因は、前の記事でも軽く触れた通り
  1. レイアウト設計と現実の選手の実力の乖離
  2. ルールの難化
 1は散々述べました。ちゃんと選手のレベルを鑑みて、得点に差は付けつつも低いレベル帯にも成功体験を積ませるようなレベリングをするべきです。
 2はかなり曲者です。ルールが存在する以上、大会で登場する可能性があり、選手の開発の負担は大きく増大します。(そして実際に大会に登場します。)これに関してはいくらレベリングを適切に行い低い難易度のコースを用意しても「偶然登場した課題の対策を後回しにしたチーム」が絶望するだけです。
 これまでの大会で「対策してきたチームがかわいそうだから」と言いながらあらゆる課題を詰め込んだレイアウトを用意する設計者をよく見ますが、残念ながら「全種類の課題をそつなくこなす」ことが非常に困難であるほどに、ルールは難化してしまいました。課題のフルコースを毎度突きつけられる選手のほうがよっぽどかわいそうです。

 これに関してルールを易化する以外の解決は、ローカルルールで「傾斜路は設置しません」等の告知をして強引にでも選手の開発の負担を減らす他ないと思います。
(実際にNESTロボコン日本リーグでこれを行ったところ、かなりうまく機能した感触がありました。)

 あぁちなみに、救助エリアはどう足掻いても絶望的です。以前に得点計算の観点から「得点を稼ぐという目的で、救助に挑戦することは非効率的である」ということは述べましたが、そもそも開発コストの面からしても非効率的です。
 つまるところ、あまりに難しすぎます。
 レイアウトのレベリングで調整できる範疇を超えて、難しすぎます。
 レベリングが不可能な困難なルールを制定した時点で、低いレベル層を切り捨てるルールであるといっても過言ではありません。
 しかもよりによって、"被災者の救助"という競技のメインテーマでこの切り捨てを行っているのでは世話もありません。

 これに関しては明確にルールの欠陥であると考えています。






かなりダラダラと書き連ねました。
まとめます。
  1. レイアウト設計者は選手層に合わせたレベリングをもっとしっかり行うべき(でないと全くもって教育的ではない)
  2. そもそもルールが難しすぎ、選手の負担が大きい
  3. 難しいルールのもとで適切なレベリングを行うためには、ローカルルール等で強引にルールを変更する必要がある
  4. そもそもレベリングが不可能なルールがある。(しかも競技の中枢に)
  5. 3、特に4の性質を持つルールは明らかに欠陥であり、教育的でなく、まともにレベリングを行おうとする大会運営へかける負荷も大きい



ロボカップの選手を引退した後、競技運営に関わるか指導に関わるかのうち、私は後者を選びました。両者を取るほど器用ではないので。

その視点で、生徒らがルールに粉砕される様を見続ける事は、いい加減に心苦しくなってきました。

 


今回の大会への講評もあるのですが、どちらかというとロボカップジュニアレスキューのルールや運営に対する批判が主な内容です。

とりあえず大会への講評、というよりも自分の反省です。
今回は久々にフィールドレイアウトを作る機会があったので、少し時間をかけて考えながら設計しました。
主な項目として
  1. この大会は別に上位大会への選考もなにもないので、いい思いで競技を終わって欲しい
  2. ただ一応ロボカップジュニアも目前に控えているので、ある程度課題意識を持たせる必要がある
  3. 競技会ではあるので、ある程度は得点に差が出る必要がある
の3つのせめぎ合いの元で難易度調整を行いました。

ちなみに1,2について極端な例を考えると
(1)を押し通すと……簡単なレイアウトで、ほとんどが満点ないしは高得点
(2)を押し通すと……難しいレイアウトで、ほとんどが0点ないしは進行停止を連発する
となります。
(2つ目は実際の競技会でもよく見る光景ですね)

というわけでできたのが次の日本リーグのレイアウトです。
なお、ローカルルールで減速バンプと傾斜路は課題から除外しています。
NESTレイアウト-NL.drawio

各々のチームの開発の進捗状況に応じて気持ちよく点数を取ってもらいつつ、その進捗状況はしっかりと点数に反映されることを念頭に設計しました。

より詳細には
・第一CPまで:ライントレースを重視
 簡単なライントレースができれば得点できればクリアできる区間。二連ギャップがあるが、ギャップ自体は短く事前の直線区間も長いため、ギャップでの線探査プログラムがなくてもライントレースがしっかりしていればクリア可能。
・第二CPまで:障害物への対応を重視
 第一区間と同様簡単なライントレースに加え、障害物で構成される。障害物は直線状に配置されているため、「障害物検出→右旋回→直進→左旋回→直進...」といった愚直な方法でも容易にクリアできる。
・第三CPまで:各課題を誤魔化さずにクリアできるかを重視
 カーブ後の長めのギャップでは、ほとんどの場合で線を探す動きが必要なはずで、そのプログラムを用意できているかが試される。また障害物は第二区間と違い直角カーブ上に配置されているため、第二CPの障害物の回避と同一のプログラムで対応するには「障害物の壁面に沿うように移動、黒を見つけたらライントレースに復帰」といったものを用意する必要がある。
・救助エリア
 救助エリアでの難易度調整は難しい、というかあまりに項目は少ないが、
・出入り口は部屋の端設置し脱出しやすく
・救助できるチームが得点を稼ぎやすいよう、気持ち多めに(緑2人、黒3人)



……となっています。
この手のバランス調整はかなり難しいと思っているのですが、結果は個人的には大成功でした。
というのも、よく大会で見られる「ほとんどのチームがまともに競技できず、一部の上位チームが上手く点を取って順位を稼ぐ」という、上述の(2)の状態にならず、また高得点続きで差が出ないような(1)の状態にもならなかったからです。

具体的な数値として、日本リーグで二回競技を行った際の、良かった方の得点をまとめたヒストグラムが次になります。
chart (2)
(目盛りの最低値が30点から始まっているので注意)
(満点は305)

かなりいい感じにバラけつつ分布していると言えるかと思います。
ちなみにピークが100点と170点付近にありますが、点数の内訳を見ると被災者救助に絡めたかどうかで分かれ目になっています。


次にワールドリーグのレイアウトです。
NESTレイアウト-WL.drawio

設計の意図は日本リーグと同一なので省きます。ただ、日本リーグに比べて課題の種類が多いため、やはり全てを試そうとするとやや窮屈になってしまいます。(あと傾斜路は単に入れ忘れました。)

ただこの「全てを試そうとすると」というのが今回の私の最大の反省点です。

結論から言って、現行のレスキューワールドリーグのルールで許されるフルスペックでレイアウトを作成すると、現実的な選手のレベル帯にとっては難しすぎる

これが昨今の大会で散見される「ほとんどのチームが進行停止を連発する」惨状を生むわけです。

ルールそのものの難化も原因の一端ではありますが、しかしレイアウト作成者は難しい要素を取り入れない選択も取ることができます。
しかしながら選手のレベルを直視せずに、見合わないレベルのレイアウトを押し付けている状態が、交差点の登場や被災者が球体になった頃から加速しているように感じます。

ワールドリーグのコース設計に関しては、私もその状態を滲み出してしまったと反省しています。(主に救助エリアを出た直後の交差点ラッシュ)
ちなみに結果はこちらです。
chart (3)
25点未満の層のうち3チームは走行を開始したことによって得られる5点のみで、文字通り動かないようなロボットだったので除外して考えます。
するとまぁ、分布自体はいい感じですが、最大点はやはり低いです。
コース自体の満点は1207点ですが、これは救助に関する点数が定数で入って馬鹿げたことになっているからです。
全チーム通して救助は無かったので、ライントレース部分のみの点数を満点を計算すると、275となります。
これと比べても、やはり少し最大点は少し低いです。

ちなみに、被災者救助に関しては課題そのものが難しすぎるので、設計によって難易度調整がどうこうできる次元ではないです。
これに関してはルールに問題があるのでどうしようもないです。

さて、大会の振り返りはここまでにしておき、次回はルールや運営に対する批判のパートに移ります。









 

NESTロボコンお疲れ様でした。
例によってレスキューのスタッフとして参加しました。
今年は久々にチーフを担当しまして、てんわやんわでした。

加えてここ2年、私自身は競技運営に関わらず配信担当として関わっていたのもあり、現場のイメージが完全に抜け落ちていたのもしんどかったです。

チーム数が多かったのもあり、無観客にかかわらずwebでの配信のクオリティが低くなってしまったことについてお詫び申し上げます。

また、結局のところ準備不足の部分はお集まりいただいたスタッフ方のマンパワーで解決する形になりました。
ご協力いただきありがとうございました。


チーフとして関わった以上、理論上は競技の一切合切が私の制御下にあったわけですが、それ故に反省点も多く出てきました。
準備不足やらなんやらは単に私が準備にかけるコスト意識やら見積もりの甘さの話なのであまり語っても仕方ないのですが、それ以上に、フィールドレイアウトという点で大きな反省点が残りました。

これについて書いてたらあまりに長くなったので、別記事にします。



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